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高松高等裁判所 昭和27年(ネ)28号 判決 1953年3月30日

控訴人 被告 西村商工株式会社

訴訟代理人 高橋義光

被控訴人 原告 山崎源太郎

訴訟代理人 浜口重利

主文

原判決を次のとおり変更する。

原判決別紙目録記載の山林地上に伐採せられている杉及び檜が被控訴人の所有であることを確認する。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通し、これを五分し、その四を控訴人の負担とし、その一を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求め、尚本訴請求の趣旨を原判決主文第一項の所有権確認の点に減縮すると述べた。

当事者双方の事実上の主張は、

(一)  控訴代理人は訴外今井が控訴人より受領した前渡金で買入れた山林立木が控訴人の所有となる理由は、同訴外人は控訴人より前渡金を受領しながら、これによつて買入れた木材を約定どおり、控訴人に引渡さないため昭和二十六年一月二十六日の特約においては、右訴外人との木材売買契約による控訴人の権利を保全するため、前渡金により買入れた立木は、売渡担保としてその所有権が当然控訴人に帰する旨を定めたからであるとその主張を補述し、

(二)  被控訴代理人は、本件係争物件については、被控訴人より控訴人を相手として、その伐採禁止等の仮処分命令を高知地方裁判所より得て、執行中のものである。そうして控訴人は右仮処分命令に対し異議の申立をなし、目下訴訟繋属中であるが本件山林の所有者たる訴外窪内富幸との間に係争残存立木を昭和二十七年十二月末日までに伐採搬出する約定であつたので、被控訴人はやむを得ず同年同月二十五日右立木に対して為していた仮処分の解放を高知地方裁判所に申請し、同裁判所よりその解放(立木の点についてのみ)を受けて、右立木を伐採処分したのであるから、右立木に関する本訴請求は目的物が消滅した結果になるから、その点に関する訴を取下げる。

尚これより先伐採せる杉檜はその侭本案訴訟の確定まで放置するにおいては、著しい価額の減少を生ずる虞れがあるので、被控訴人の申立により執行裁判所はこれを競売して、その売得金は供託している。

従つて、被控訴人は前記のように、その請求の趣旨を所有権確認の点にのみ減縮したと述べ、

(三)控訴代理人は控訴人の右(二)の主張中残存立木に関する点について、仮処分を解放するに至つたその理由の点は否認するがその他はすべてこれを認める。

但し、立木に関する点の訴の一部取下には同意しないが本訴請求を所有権確認の点に減縮することについては異議がない。本件係争物件はすべて、処分せられて存在しないのであるから、被控訴人の請求はすべて理由がないから棄却せらるべきであると述べた。

以上の外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠として、

被控訴代理人は、甲第一号ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号ないし第九号証、第十号証の一ないし四を提出し、原審における証人今井繁清(第一、二回)、窪内富幸、横山初真の各証言及び被控訴本人訊問の結果を援用し、乙第一号ないし第五号証は不知、その他の同号各証は成立を認めると述べ、

控訴代理人は、乙第一号ないし第八号証、第九、十号証の各一、二を提出し、原審証人大黒茂、安部宗保、藤田春夫、仁井田菊馬、西村盛啓、今井繁清(第一回)、当審証人筒井義行、田岡行夫、西村盛啓の各証言及び原審における控訴会社代表者西村豊一の訊問の結果を援用し、甲第二、三号証、第六号第九号証は不知、その他の同号各証はその成立を認め同第一号証を援用すると述べた。

理由

原判決別紙目録記載の山林地上の立木がもと訴外窪内富幸の所有であつて、同人から訴外今井繁清が昭和二十六年一月二十六日これを代金十三万七千円で買受けたことは、当事者間に争がない。

成立に争のない甲第四号証の一、二、第五号証、第十号証の一ないし四、原審における証人今井繁清(第一、二回)、窪内富幸、横山初真の各証言、並びに被控訴本人訊問の結果及び右証人今井の証言により成立を認める甲第二号証を綜合すると、被控訴人は同年二月十日訴外今井繁清より同人が訴外窪内富幸より買受けた前記立木(樹令三十年以上の杉、檜でその合計見込数量は約七百石である)を代金十四万五千円で買受け、その明認方法として、同月中旬頃右立木の無断伐採を禁ずる旨と原告の氏名を記載した立札を右山林の頂上及び中腹の人目のつきやすいところに立てて、被控訴人が所有者である旨を公示して、第三者に対する対抗要件を講じたことが認定せられる。

この認定に反する、乙第六号より第八号証、第九、十号証の各一、二(いずれも証人等の訊問調書)原審における証人藤田春夫、仁井田菊馬の各証言並びに控訴会社代表者西村豊一の供述及び当審証人筒井義行の証言は、措信できないし、その他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

控訴人は右立木は訴外今井との特約により同訴外人が前渡金をもつて買受けたものであるから、その買受と同時にその所有権は控訴人に帰属する旨主張するが仮りにその主張どおりの特約があつたとしても右立木の所有権は、訴外窪内から一旦訴外今井に移転し、右今井と控訴人との間においては特別の意思表示なくして、その所有権が控訴人に移転する趣旨の特約であることは、控訴人の主張自体に徴し明かである。然らばこの場合控訴人の所有権の取得を第三者に対抗するには明認方法を講ずることを要する。そうして、控訴人はその明認方法として、昭和二十六年三月六日所有権を明かにする立札を、右山林に立てたと主張するが、これは前記認定の被控訴人の立札の後であること明かであるから、これをもつて第三者たる被控訴人に対抗できないこと謂うまでもない。控訴人の右主張は全く理由がない。

控訴人が同年四月過ぎ頃に右立木を伐採し初めたところ、被控訴人よりその伐採及び搬出禁止の仮処分を受けたので、約四割が立木の侭となり残り六割が伐採されたまま同地上に置かれてあつたこと。その後右伐採された杉、檜はそのまま放置すると価額が著しく減少する虞れがあるとして、被控訴人の申立により執行裁判所において、これを競売に付し、その売得金が供託されたこと。更にその後の昭和二十七年十二月二十五日右残存立木に対する仮処分の解放を受けて、それを伐採し売却したことはいずれも当事者間に争がない。

そうすると被控訴人の残存立木に関する所有権確認の点は(もつとも、この訴は当審において、被控訴人は取下の意思を表示したが控訴人が同意しないため取下の効力が発生しない)目的物が無くなつたから訴の利益がないので、これを棄却する。

控訴人は前記換価処分をされた伐採木材に対しても、その存在がなくなつたから、確認の利益がない旨主張するが、被控訴人の仮処分の目的はその目的物たる立木の所有権を保全するにあるものと解せられる。被控訴人は右立木そのものに特別な価値を認めてこれが保全を図るのではなく、その財産的価値の保存を目的としていることは、口頭弁論の全趣旨に徴し明かである。するとその目的物の価値が著しく減損する虞れがあるときは、これを処分して、その目的物に代る代金を供託して置くことは、結局その所有権の保全の目的にかなうものである。従つてこのことを理由として、これが換価の申立をし、その決定があつたものと認められる。このように目的物と同一視すべき供託金が存在する以上、上訴審において目的物の所有権の存否を争う本案について、判決をするときは、右換価の事実を全然斟酌しないで請求の当否を判断すべきものである。しからば控訴人の右主張は理由がない。

結局被控訴人の本訴請求(減縮された部分)は右伐採木材がその所有に属することの確認を求める部分は、相当として認容せられるが、その余の部分は失当であるから、これを棄却する。

右認定に反する原判決は一部失当であるから、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第九十二条に従つて、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 石丸友二郎 判事 萩原敏一 判事 呉屋愛永)

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